土地に出会う

予てから思い描く理想の土地を求め各地を巡ってきました。
そしてようやく出会えた地、北信州は黒姫山の麓の森の中。そこは見渡すかぎり草木が茂り、近くには草原が広がる。静けさに、風に触れ合う木の音と遠くで流れるせせらぎと鳥の囀りだけが聞こえる。
その森は長く人の手が入っていないらしく、辺り一面背丈ほどもある笹に覆われ、中の様子は分からない。
笹を刈り、木を伐り、その荒れた森を少しづつ拓いていくと、やがて木の間から日が差し込み、風が抜け、しばらく眠っていた森は息を吹き返すかのように呼吸を始めた。そして身体がすーっとそこに溶け込んでいく。人は自然を沢山壊してきたが、活かすこともできる。
「ここだね。ここに小さな家と小さな店を建てて暮らしていこう。」

草木は芽吹き、葉が繁り、やがて落葉し、雪が舞い一面純白に包まれます。移り変わる景色に身を置き、ここでの暮らしやお客様が食事をする風景を想像し、思いを巡らしてきました。しかしここは古より様々な生物が連綿と営みを続ける大自然。水道も電気も来ていない。そこに生きるもの達と共に、暮らしを豊かなものにすることはそう容易いことでもなく、安易には考えられない。はやる気持ちを抑え、この森は少しづつ手を掛け築いていくことにします。
そして、この森からもそう遠くはない町役場の裏に建つ古い家屋に出会い、ここを直し新たなお店を作ることにしました。
古材や朽ちた木材、山から切り出した自然木、古い建具、野ざらしの椅子などを集め、自ら構想し、大工、左官、建具、全て近隣の職人さんの手を借りて、高い技術を要すとても手間のかかる作業が続きました。
多くの方のご協力を頂き、およそ一年がかりの改修工事を終え、2020年10月、簡素で静かな空間が完成し、温石は開店致しました。

温石
これから

東京を離れ信州松本で始めた「日本料理 温石」。流れる月日は早く15年が過ぎ、さらに美しい自然と四季、素材とより近しい環境を求めこの地に辿り着きました。
そして、ここ黒姫に築50年程の古い家屋を改修し「温石」を開店致しました。
屋号を改めまして、今後は日本料理の繊細でいて奥行きのある優しい味わいを、より多くの方にお伝えできるよう努めて参ります。これまで続けてきた日本料理に加え、長野県で栽培される小麦を使用したおうどんをご用意致します。

古くから日本では、暮らす土地に育ち、生るものを食し、その風土、環境の中で食文化は形成され、それが土地それぞれに独自のものとして多様な食の形が生まれました。
繊細で奥深い日本食の味わいは、発酵や熟成など目に見えない微生物の働きにより時間をかけてこそ生まれるものです。先人はそれを知り、知恵と工夫と優れたセンスで食を豊かなものにし、今に伝えます。ところが世の中の流れで食の形は大きく変わりました。望めば多くのものは手に入り、時間をかけず簡単に食せるものが増え、手軽で便利になったように思います。その反面、深みや繊細さに欠け、地域性が反映されない均一的で心踊らないものとなり、そこには人が食すべきではないものも多く含まれ、決して豊かとは言えないものになってしまいました。

温石では、今後も変わらず古くからの食の形に倣い、この土地のもので、この土地の風土、環境に寄り添い、人の食すべきこの土地らしい料理を作っていきます。
暮らす土地で出会う人やもの全てがかけがえのないことで、その与えられた環境の中で、そこにある健全な素材で出来得る最良の料理を作る。それが自然と美味しさや心地良さに繋がる。それは最上である必要はなく、大切なのはこの土地で出来る最良のことをするということです。
新たな土地で新たな出会いの中で、この土地らしい食の形を考えます。

山、里、海、川、とても恵まれた環境に私達はいます。
ここ黒姫の大地に育ち、生るもの、その季節の恵みを料理し、余すことなく使うことを心掛け、残ったものは土に戻す。自然が繰り返す循環の中で人が暮らすことでこの美しい大地は保てる筈です。
人は必要以上に利便や効率を求めすぎ、自然と共にあることを忘れ、大切なものの多くを失ってしまったように思います。
少し立ち止まり後ろを振り返り、そこに見る先人が辿った歩みは、これからの私達に必要なことを示し教えてくれるのではないでしょうか。

この黒姫の地で料理人として、生活者として自分のできる小さな行いを続けていきます。
小さな灯も、消えなければいつしか大きな炎となることを信じて。

温石
料 理

この土地から生まれる、この土地だからこそできる料理。そしてそれは人の食すべき健やかなものでありたい。

太古より重なる有機質の高い黒ボク土と高原環境が生む寒暖差と霧、冷涼な気候は農作物をゆっくりと成長させ、味、糖度、栄養価までも高めると言います。この恵まれた自然環境が良質な農作物を育みます。農家さんからは、農薬や化学肥料を使わず施肥も控え、作物自身の生命力を最大限活かした健全な野菜を頂きます。
黒姫の森には様々な山菜や鳥獣が生息し、その逞しく生命力に満ちた野生の山の恵みを得ます。
近くには野尻湖、そして日本海。湖と海の恵み。

移り変わる季節に夏は瑞々しい夏野菜、秋は茸に秋野菜、冬は長く深い雪に覆われ、農作物の収穫は途絶えます。その前に収穫を済ませた冬野菜を雪下に保存し、発酵、熟成、乾燥など微生物の力も借りて春までその味わいの変化を楽しみます。その管理は自然環境ゆえの気の抜けない難しさはありますが、それがこの土地だからこそできるこの土地らしい料理に繋がります。やがて長い冬が明け、雪が解け始める頃待ちに待った山菜が芽吹きます。

この美しい自然だけが広がる素晴らしい環境に身を置き、山に入り、土を耕し、この土地で得る力強く健やかな素材と真摯に向き合い、目をつむり耳を澄まして自ずと浮かぶ料理を形にします。その一皿が時を経ても変わらず心に響くものとなるように。

昼 うどん古くから続く日本食の文化。そのお出汁は繊細でいて奥行きのある優しい味わいです。数種の乾物、発酵物を合わせることで生まれる深い旨味。それは長い月日を経てこそ生まれるものです。昨今の手軽に得られる化学的な旨味とは異なり、切れが良く後味がすっきりとしています。その澄んだお出汁を味わって頂きたく、おうどんに仕立てます。
長野県で栽培される小麦を全量使用したおうどん。
北信州から中信州にかけて栽培されている小麦ユメセイキは、もちもちと滑らかな食感を生みます。その特性をより活かすために、県内で栽培される数種の小麦をブレンドし、水分量、塩濃度、生地熟成などを変え試行錯誤の末、滑らかでふわっと柔らかい中にもちもちした食感を残す麺に仕上げました。その麺との相性を考え、香りを抑え、しっかりとした優しい旨味だけを引き出したお出汁を合わせます。砂糖や味醂など甘味調味料は一切使用せず、調味料も極少量に抑え加減した、最後まで飲み干して頂けるおうどんに仕立てております。
醤油、味噌、酒粕などの調味料も全て信州で醸したものを使用した、言わば「信州うどん」です。

晩 季節の料理この土地が育む季節の素材をお料理致します。
一皿一皿に素材を明解に感じて頂けることを大切に、必要のないものは決して加えず、簡素でいて印象的な料理を心掛けます。そこには華美な装飾や演出は必要としません。凜と美しい器に盛り付けられた料理はそれだけで美しく映えるものです。
常に新しさを求めるのではなく、時を経ても古びない料理を目指し、一つの料理を少しずつ育むことでより良い料理に高めて参ります。
足繁くお越し頂くお客様には同じ料理をお出しすることも多々ございますが、常に改良を心掛けております。その僅かな変化をお楽しみください。
また一連の料理の中に同素材を使用することもございます。素材には多様な味わいを秘めております。料理の仕様による様々な味わいもお楽しみください。
ものは本来全てが等しく在ります。いわゆる高級素材を沢山使用し贅を尽くすことに尽力は致しません。人が作ってしまった偏った価値ではなく、素直に良いと思えるものを選び、料理に仕立てます。
足さないことで際立つ一皿。足すことでその調和を楽しむ一皿に。

温石
温石について

おうどんには3種のお出汁と数種の添え物をご用意致します。
各々お好みのおうどんを季節の野のもののお料理と季節の果実を使った甘味と共に、
ちょっと一杯傾けながらゆっくりお昼のときをお楽しみください。

  • 時間
  • 11:30の席、13:00の席
  • 料金
  • 2500円~(税込み)
  • お席
  • 8席(1~6名様)
  • 定休日
  • 月、火曜日、隔週水曜日

前日までのご予約をお願い致します。 上記定休日以外にも臨時でお休みを頂くことがございます。SNS、お電話にてご確認ください。

黒姫の大地で育つ野菜や山菜を中心に、野尻湖や川の幸、新潟の海の幸、ジビエや飼育肉と共に季節の地素材をお料理致します。
豊かな土地が育む北信濃の滋味をゆっくり流れる静かなときと共にお楽しみください。

  • 営業日
  • 週2日
    (木、金、土、日曜日のうち2日)
  • 時間
  • 18:30 ~ 19:30(LO)
  • 料金
  • 11,000円(税込み)
  • お席
  • 6席(2〜6名様)

2日前までのご予約をお願い致します。

お食事の注意事項 ご予約の際にアレルギーの有無を伺っております。アレルギーのある方はその旨をお伝えください。
また、同席される方がアレルギーがあったり、お肉や生ものなど召し上がれないものがある場合には、食材の都合上皆様その方のお料理に合わさせて頂くこともあることをご了承ください。
完全予約制となっております。昼のお食事は前日、晩のお食事は2日前までのご予約をお願い致します。 晩のお食事は 週2日のみのご用意となります。その為 ご予約の先着順により営業日が決まりますことをご了承ください。 ご予約、お問い合わせはお電話にて承っております。メールやSNS等でのご予約、お問い合わせは、確認が遅れお返事にお時間がかかってしまうことがある為お控えください。 小さなお子様用に通常のお料理を半量にしてご用意致します。尚、特に年齢の制約はございませんが、お食事にお昼は1時間半程、晩は3時間ほどの時間を要します。その間席に着いて騒ぐことなくお食事を楽しめるお子様に限らせて頂きます。 2日前以降のキャンセルにつきましては、食材と料理の準備の都合上、心苦しいのですがキャンセル料のお支払いをお願い致しております。 お支払いの際、クレジットカードのご利用は出来ません。 お帰りの際にタクシー、代行車をご利用の場合は予め手配が必要となるため、ご予約時にその旨お伝えください。 ご宿泊をお考えの方には、近隣のお宿をいくつかご紹介しております。ご予約の際にご相談ください。

温石
そのうへについて

温石の戸を開け露地を進み、靴を脱いですぐ左の階段を上がると「そのうへ」はあります。
日々流れゆく暮らしの中で、さして気にもとめずに手にする道具は、毎日使うからこそ使いやすく、心地が良く、美しいものがいい。
使い込む程に手に馴染み、味わいを増し、いつしか唯一つの自分のものとなっている。
沢山はいらない。大好きなものがひとつ、ふたつ、みっつ、いつもそばにある。
そんな日常にずっと寄り添えるものがある暮らしを。

長く使える暮らしの道具、書籍、食品など。
田所真理子の作品もご覧頂けます。

  • 時間
  • 11:30 ~ 14:00(入店)
  • 定休日
  • 月、火曜日、隔週水曜日

上記定休日以外にも臨時でお休みを頂くことがございます。SNS、お電話にてご確認ください。 「そのうへ」はお食事をしなくてもご覧頂けるので、気兼ねなく戸を開けお入りください。

店舗情報