この土地から生まれる、この土地だからこそできる料理。そしてそれは人の食すべき健やかなものでありたい。
太古より重なる有機質の高い黒ボク土と高原環境が生む寒暖差と霧、冷涼な気候は農作物をゆっくりと成長させ、味、糖度、栄養価までも高めると言います。この恵まれた自然環境が良質な農作物を育みます。農家さんからは、農薬や化学肥料を使わず施肥も控え、作物自身の生命力を最大限活かした健全な野菜を頂きます。
黒姫の森には様々な山菜や鳥獣が生息し、その逞しく生命力に満ちた野生の山の恵みを得ます。
近くには野尻湖、そして日本海。湖と海の恵み。
移り変わる季節に夏は瑞々しい夏野菜、秋は茸に秋野菜、冬は長く深い雪に覆われ、農作物の収穫は途絶えます。その前に収穫を済ませた冬野菜を雪下に保存し、発酵、熟成、乾燥など微生物の力も借りて春までその味わいの変化を楽しみます。その管理は自然環境ゆえの気の抜けない難しさはありますが、それがこの土地だからこそできるこの土地らしい料理に繋がります。やがて長い冬が明け、雪が解け始める頃待ちに待った山菜が芽吹きます。
この美しい自然だけが広がる素晴らしい環境に身を置き、山に入り、土を耕し、この土地で得る力強く健やかな素材と真摯に向き合い、目をつむり耳を澄まして自ずと浮かぶ料理を形にします。その一皿が時を経ても変わらず心に響くものとなるように。
昼 おうどん古くから続く日本食の文化。そのお出汁は繊細でいて奥行きのある優しい味わいです。数種の乾物、発酵物を合わせることで生まれる深い旨味。それは長い月日を経てこそ生まれるものです。昨今の手軽に得られる化学的な旨味とは異なり、切れが良く後味がすっきりとしています。その澄んだお出汁を味わって頂きたく、おうどんに仕立てます。
長野県で栽培される小麦を全量使用したおうどん。
北信州から中信州にかけて栽培されている小麦ユメセイキは、もちもちと滑らかな食感を生みます。その特性をより活かすために、県内で栽培される数種の小麦をブレンドし、水分量、塩濃度、生地熟成などを変え試行錯誤の末、滑らかでふわっと柔らかい中にもちもちした食感を残す麺に仕上げました。その麺との相性を考え、香りを抑え、しっかりとした優しい旨味だけを引き出したお出汁を合わせます。砂糖や味醂など甘味調味料は一切使用せず、調味料も極少量に抑え加減した、最後まで飲み干して頂けるおうどんに仕立てております。
醤油、味噌、酒粕などの調味料も全て信州で醸したものを使用した、言わば「信州うどん」です。
晩 季節のお料理この土地が育む季節の素材をお料理致します。
一皿一皿に素材を明解に感じて頂けることを大切に、必要のないものは決して加えず、簡素でいて印象的な料理を心掛けます。そこには華美な装飾や演出は必要としません。凜と美しい器に盛り付けられた料理はそれだけで美しく映えるものです。
常に新しさを求めるのではなく、時を経ても古びない料理を目指し、一つの料理を少しずつ育むことでより良い料理に高めて参ります。
足繁くお越し頂くお客様には同じ料理をお出しすることも多々ございますが、常に改良を心掛けております。その僅かな変化をお楽しみください。
また一連の料理の中に同素材を使用することもございます。素材には多様な味わいを秘めております。料理の仕様による様々な味わいもお楽しみください。
ものは本来全てが等しく在ります。いわゆる高級素材を沢山使用し贅を尽くすことに尽力は致しません。人が作ってしまった偏った価値ではなく、素直に良いと思えるものを選び、料理に仕立てます。
足さないことで際立つ一皿。足すことでその調和を楽しむ一皿に。